【感想・書評】天才! 成功する人々の法則(講談社)

天才! 成功する人々の法則(講談社

 

 

『天才! 成功する人々の法則』の感想・書評

 2009年5月12日第1刷。
 原題は『OUTLIERS THE STORY OF SUCCESS』です。

 OUTLIERS。外れ値。つまり、飛び抜けた人々、ということですね。どんな人が世界的な業績を上げるのか。その人の内部要因だけでなく、外部要因、環境に大きく注目しています。
 巻末には、ある程度、参考文献が引用されており、全くの筆者の独りよがりというわけではなく、ある程度、客観性が保たれた、まずまずまともな本だと思います。

 著者はマルコム・グラッドウェルという方です。『ワシントン・ポスト』紙のビジネス、サイエンス担当記者や、雑誌『ニューヨーカー』のライターなどの経歴を持つ人です。他の著書に
・第1感~「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい~ (光文社未来ライブラリー) 

・急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則 (SB文庫)
があります。

 翻訳は、元公認会計士、経済評論家、ライフハッカー中央大学大学院戦略経営研究科客員教授などで有名な勝間和代さんです。あとがきの解説で「翻訳に手を挙げさせていただいた」とおっしゃっています。勝間さんは著書に
・無理なく続けられる年収10倍アップ勉強法(ディスカヴァー)
お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践(光文社新書
・ 起きていることはすべて正しい 運を戦略的につかむ勝間式4つの技術(ダイヤモンド社
・不幸になる生き方 (集英社新書
・まじめの罠 (光文社新書
・高学歴でも失敗する人、学歴なしでも成功する人(小学館101新書) 
などがあります。

 

天才が生まれる条件は?

 『天才! 成功する人々の法則』では、アイスホッケーやサッカーの選手は、同学年の中で早い月に生まれた人が多いことが論じられます。子供の頃の数ヶ月の生まれの差は、身体の成長への影響が大きい。したがって、早く生まれた人が選抜され、よりよい指導を受け、より多く実戦を積む、ということになりがちである、と。

 学習についても、同じことが起きているかもしれません。小学生あたりだと、4月生まれと3月生まれでは、ほぼ1年間、生まれに違いがあり、脳の発達度への影響は大きいかもしれません。
 そして、普通の公立小学校では、選抜制度などはないので、先述のアイスホッケーやサッカーの議論が当てはまるかはわかりません。一方、大学の研究では、「成功」との相関係数は、「自己効力感(自信)のほうが、技術的なものより大きいことが明らかになっています。初期の頃、ちょっとよくできたことが、自信につながり、自身が成功を呼び、さらに、成功が自己効力感につながるといった、生のスパイラルがうまれるかもしれません。逆に、初期に、ちょっと理解できないことがあり、自信を失い、テストでの失敗につながり、さらに、失敗が自信喪失につながる、という負のスパイラルにつながる、といったことも起きているかもしれません。
 負のスパイラルにハマっている人は、一刻も早く、自分ができていないところまで戻って、説明を理解して、問題を解けるようにし、ひたすら復習して克服し、テストで徐々に良い点を取り、自信を回復することが大切だと思います。

 

一万時間の法則?と成功する人々

 『天才! 成功する人々の法則』には、ちょっと有名になった「一万時間の法則」という話が出てきます。ビートルズビル・ゲイツも、一万時間のトレーニングを積んだ。
 ただし、著者は、ここで、『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋の著者、フロリダ州立大学心理学部教授のアンダース・エリクソンの調査を引用しているのですが、アンダース・エリクソン教授自身が、「一万時間の法則」は安直だ、と訂正を求めているようです。

 

 

 話を簡単にすると、アンダース・エリクソン教授の著書にあるように、「現在の自分より少し上のレベルのトレーニング」(日本語訳では「限界的練習」としています)を一万時間前後続けることが、超一流になるための必要条件、といったところでしょうか。
 ただし、プログラミングにしろ、楽器にしろ、一律に何時間、というわけではなく、上達が早い人と遅い人がいるのだと思います。
それ自体を「才能」と呼ぶのではなく、興味や情熱を持って取り組んだ結果、その人にとってそれが「生存に不可欠な営み」だと脳が判断したからこそ、脳に神経回路が早く強固に形成されるのではないか、と考えます。

 

生まれた年と成功する人々

 ビル・ゲイツスティーブ・ジョブズは1955年生まれ、その他、シリコンバレーの大物が1955年前後の生まれが多いことが論じられます。パソコン革命にとって最も重要な1975年に20歳前後である必要があったと。

 

就職した後の話

 『天才! 成功する人々の法則』では、IQが195で大学から奨学金を全額支給されていたのに、酒場の用心棒が主な職業だった人が登場します。
 彼の義父は、浴びるほど酒を飲み、子供に暴力を振るったそうです。そして、母親が奨学金の書類を郵送しなかったため、奨学金が途絶え、成績優秀だったにもかかわらず大学を中退した。このような家庭環境で、他人の助けを得る、世の中を上手く渡っていくことを学ばなかった場合、IQが高くても成功しない、という心理学者による調査が紹介されています。

 また、アメリカのノーベル賞受賞者の出身大学にかなりばらつきがあることから(ただし、大学の世界ランキングなどからして、日本で言う、東大、京大あたりに入ることは必要そう)、研究者として大成するためには、ある程度のIQは必要だが、それ以上のIQはあまり関係ない。
 それよりも、たとえば、「レンガの使い道を思いつく限り書き出す」といったテストでユニークな答をできる(たとえば、ドアストッパー)ことが創造性において大切だろう、と考察しています。(レンガの使いみちテストについては学術的な根拠は本書には見当たりません。)

 大学受験はペーパーテストの点数、つまり、IQが高ければ成功します。一方、世の中を見ればわかりますが、東大卒が、他大卒よりも必ずしも出世するかというと、決してそうではありません。東大医学部卒からはノーベル賞受賞者が出ていない、などとも言われます。その原因は、このあたりにありそうですね。

 

うまくいかない人達

 『天才! 成功する人々の法則』では、権力格差の大きい文化、つまり、副操縦士(部下)が機長(上司)に率直に発言をしにくいような文化で、航空機事故は多く起こると考察されています。墜落の危機にあるのに、副操縦士が婉曲的な表現をするから、機長に伝わらない。
 たとえば、塾の先生と保護者の方々も似たような関係性なのではないでしょうか。塾の先生は、成績が上がらない原因をわかっていることも多いでしょう。それが、家庭のあり方にある場合、たとえば、初めて面談に来た時に、保護者の方に、この旨を伝えても、信頼関係もできていないので、聞く耳を持ってもらえず、「何だこの塾は!」と怒って、次の塾を探すだけでしょう。では、最初は何も言わず、徐々に、婉曲的にそれとなく伝えようと思っても、このようなご家庭は、自覚がないので、自分の家庭がダメなことに気づかないでしょう。そして、いよいよ成績が上がらないので、塾としては直接的な表現を使うわけですが、このような家庭の保護者は、空虚な自尊心をお持ちのことが多く、激怒するのだと思います。いかんともし難いですね。
 塾の先生は、決して、偉そうにしたいわけではないでしょう。ただ、このような場合、実際に教育がうまく行っていないのだから、謙虚な姿勢で、自分のほうが塾の先生より下なんだ、という姿勢であればいいのになあ、と思います。

【感想・書評】究極の鍛錬 天才はこうしてつくられる(サンマーク出版):成功は天賦の才能ではない

【感想・書評】究極の鍛錬 天才はこうしてつくられる(サンマーク出版):成功は天賦の才能ではない

 

 

 2010年第1刷。

 

『究極の鍛錬 天才はこうしてつくられる』の著者

 著者はジョフ・コルガンさんというアメリカのジャーナリストです。ハーバード大学卒業(最優秀学生)。ニューヨーク大学スターンビジネススクールMBA取得、だそうです。大学の先生ではありませんが、巻末に引用した論文などがたくさん載っている、ちゃんとした本だと思います。

 

『究極の鍛錬 天才はこうしてつくられる』の書評、感想

 原書の題名は『Talent Is Overrated』。下記の目次の第2章「(生まれ持った)才能は過大評価されている」ですね。

 全体として、世界的業績を上げるのに必要なのは、生まれ持った才能ではなく、「究極の鍛錬」である、ということが述べられています。どのような鍛錬が「究極の鍛錬」なのか、「究極の鍛錬」を日常やビジネスに応用するヒント、成功を収めた人々がどのように練習し、スキルを磨いたかが詳しく説明されています。
 また、この本では、成功に必要な要素として、専心した練習、専門知識、目標志向性、負けず嫌い、そして耐久性などの要素が紹介されています。

 『究極の鍛錬 天才はこうしてつくられる』にはアンダース・エリクソンという心理学者が何度か登場します。本書の内容は、日本での初版が2016年、フロリダ州立大学心理学部のアンダース・エリクソン教授の著書『超一流になるのは才能か努力か?』とかなり重なります。

 

 

 ただ、『究極の鍛錬 天才はこうしてつくられる』独自の視点で書かれた内容もあるので、両方読む価値はあると思います。

 本書では、以下のような洞察が述べられます。

 

偉大な成功者は、熱心に専門的に練習している。

 多くの人々は、才能を持っている人々が自然と成功すると信じています。しかし、本書では、才能を持っている人々も練習が必要であると主張しています。実際、才能を持っている人々が練習を怠ることが多いため、彼らは最大限の成功を収めることができない可能性があります。
 この部分は、成功と才能の関連性について深遠な洞察を示しています。しばしば社会では才能が成功への鍵であるとされますが、その通説に異議を唱え、成功への道はむしろ一貫した努力と専門的な練習によって築かれると強調しています。

 自己改善や成長に焦点を当てたい読者にとって、特に響くでしょう。才能を持っていることは疑いなく有利ですが、それだけでは成功は約束されていないというメッセージが、読者に対する行動の喚起につながる可能性があります。結局のところ、本書は才能だけでなく、専門的な練習と熱心な努力が成功への不可欠な要素であるという、鼓舞的な視点を提供しています。

 

ただ練習をするだけでは十分ではなく、意識的な練習が必要である。

 練習には「意識的な練習」と「ルーティンの繰り返し練習」の2つの種類があります。意識的な練習は、目標を設定し、反復し、フィードバックを受け取り、練習を改善することに重点を置いています。ルーティンの繰り返し練習は、同じことを何度も繰り返すことによってスキルを磨くことに重点を置いています。成功に必要なのは、両方の種類の練習を組み合わせることですが、意識的な練習の質が練習の量よりも重要であることがわかっています。
 この部分は、練習の質と量、そしてそれが成功への道にどのように影響を与えるかについて、洞察に満ちた視点を示しています。成功への道は単純な時間の投資以上のものを必要とし、それは「意識的な練習」という形をとることが明らかにされています。 

 「意識的な練習」と「ルーティンの繰り返し練習」の二つの概念は、それぞれが練習の異なる側面を補完するものとして描かれています。前者は目標指向で自己反省的な練習を、後者はスキルの習熟度を高めるための反復練習を表しています。しかし、重要なのは、これら二つの練習スタイルは互いに排他的なものではなく、むしろ組み合わせることで最大の効果を発揮するという点です。そして単に時間を費やすこと以上に、自身の練習をどのように進め、改善していくかが重要であるという示唆が与えられています。一見すると、この情報は単なる事実の提示に過ぎませんが、練習の方法について深く考えるきっかけを提供し、読者に対してより効率的な学習方法を追求するように促しています。
 全体的に、目標達成に向けた練習のアプローチについて新たな視点を提供し、ただ時間を費やすだけではなく、どのように練習するかが成功への鍵であることを強調しています。

 

練習の際に、リアルなフィードバックを得ることが重要である。


 本書は、成功するためには優れたコーチングが重要であると主張しています。優れたコーチは、練習方法を改善し、練習中の課題を克服するための戦略を提供することができます。また、優れたコーチは、フィードバックを提供し、モチベーションを高めることができます。
 この部分は、成果を最大化するための練習法として、フィードバックの重要性とコーチングの役割に対する深い理解を示しています。それは、練習に対する独自の視点を提供し、その過程が単なる行動の反復ではなく、絶えず学び、適応し、成長する活動であることを強調しています。
 「リアルなフィードバックを得ることが重要である」という主張は、目標達成のための重要なステップを明確に示しています。フィードバックは、自己評価が難しい状況や視点が偏ってしまう可能性がある場面で、真実を明らかにする役割を果たします。これにより、我々は自分自身の弱点や改善点を明確に認識し、対策を立てることができます。
 また、優れたコーチングの価値について述べた部分は、成功への道程におけるガイドの重要性を強調しています。コーチは単に指示を出すだけでなく、適切なフィードバックを提供し、モチベーションを高め、問題解決の戦略を提案します。この部分は、成功への道のりが孤独なものではなく、他者の支援と共有の知識によって容易になる可能性を示唆しています。
 この部分は、成功への道程におけるフィードバックとコーチングの価値を強調し、読者に自身の練習方法と学習環境を見直すきっかけを提供します。個々の進歩を促すだけでなく、集団内での協力と共感の価値を提唱する、洞察に富んだ一文と言えます。

 

 私は『究極の鍛錬 天才はこうしてつくられる』を読んで、自分自身の成長と成功について考える機会を得ました。私は、やはり、成功は、才能や天賦の才能に依存するのではなく、それが成功に必要な唯一の要素ではないことを知り、専心した練習や意図的な学習が自分自身を向上させるための重要な要素であるという、当塾の理念を再確認しました。

 本書は、成功するために必要なスキルや要素についての深い洞察を提供しています。本書は、自分自身の成長と成功を追求する人々にとって、非常に有益であり、強くお勧めできる書籍だと思います。

 

『究極の鍛錬 天才はこうしてつくられる』の目次

1.世界的な業績を上げる人たちの謎
2.才能は過大評価されている
3.頭はよくなければならないのか
4.世界的な偉業を生み出す要因とは?
5.何が究極の鍛錬で何がそうではないのか
6.究極の鍛錬はどのように作用するのか
7.究極の鍛錬を日常に応用する
8.究極の鍛錬をビジネスに応用する
9.革命的なアイデアを生み出す
10.年齢と究極の鍛錬
11.情熱はどこからやってくるのか

【感想・書評】10年後の世界を生き抜く最先端の教育(祥伝社、茂木健一郎、竹内薫)

【感想・書評】10年後の世界を生き抜く最先端の教育(祥伝社茂木健一郎竹内薫

 

 

『10年後の世界を生き抜く最先端の教育』の感想、書評

 脳科学者の茂木健一郎さんとサイエンスライター竹内薫さんの対談です。お二人とも東大卒ですが、本書には「東大もハーバードも要らない時代」という項目があります。我々の未来を切り開くための教育法について深く掘り下げ、名だたる大学の名誉を標榜するより、多様性と創造性を大切にした新時代の教育に焦点を当てています。既成概念にとらわれない大胆な主張がなされていると思いました。

 竹内薫さんは、ご自分の娘さんを通わせたい小学校がなかったので、自分で作ってしまったそうです。「東大もハーバードも要らない」という意見を実践し、教育の未来について示唆に富むビジョンを描いていると思います。
 その学校では、「トライリンガル教育」を掲げているそうです。3言語とは、日本語、英語、プログラミング言語まあ、理想的だと思いますが、よく言われていることではありますね。ただ、いざ実行するとなると、難しいのでしょうね。実際に、学校現場で、英語、プログラミングは混乱していますし、大学入試の新共通テストの国語も出題の変化がありそうですが、記述式や選択肢に批判の声も出ています。

 『10年後の世界を生き抜く最先端の教育』には「教科書を勉強しても意味はない」という項目があります。
 竹内薫さんは、ご自分の学校では、「社会科の授業をやっていたのに、いつの間にか大陸移動説の話になっていたり」するそうです。その調べ方は、「インターネットで調べ、本を読み、あとは周りの人に聞きます」だそうです。教科書に囚われない自由な授業は、子どもたちが自分の頭で考え、疑問を解決するための情報収集スキルを育てます。本を読むこと、インターネットで調べること、そして周囲の人々から知識を得ること、この組み合わせによって、生徒たちは世界を理解し、課題に対応する力を養います。
 ただし、本書の終わりの方には、大学の科学の先生(物理の先生ではない)が、物体の自由落下の速度は密度が関係する、と間違ったことを教えている、という話が出てきます。高校物理で習うようにv=(1/2)gt2なので、密度は関係ありません。先生が信用できないのなら、何を信用すればいいのか、という話になりませんか?
 お二人が主張するように、「学校にも学年にも縛られない教育」「教科のカベも意味がない」という意味で、教科書の学年、科目の分割を批判するのはわかります。
 ただ、ネットの情報は信用できない、世の中にはトンデモ本も多い、大学の先生も間違ったことを教えている、ということになると、特に、数学、理科などは、共著で文部科学省の検定を通った、教科書の存在意義は高いのではないか、と塾長は考えます。

 「教科のカベも意味がない」ということについて、たとえば、高校の有機化学で「ピクリン酸」という物質を習います。「ピクリン酸」は日露戦争日本海海戦を完勝に導いた要因の1つと言われる「下瀬火薬」に使われます。しかし、私の知る限り、日本史の先生も化学の先生も、それに触れない。そもそも、日本史の先生は文系だから、化学の先生は理系だから、この事実を知らないことが多いのではないのだと思います。

 プログラミング教育について、「思いやり」「まごころ」などとは対極と思われがちだが、幸せになるために必要、と主張しています。
 それと関係して、現在の小学校教育の現場は「エビデンス・ベースト」(科学的根拠に基づく)ではない、という話が出てきます。
 「エビデンス・ベースト」については、東大や医学部にそれなりに合格するような高校に通う人でも、受験の情報について、「事実」を調べたり、「論理」を考えたりせずに、他人の言うことを鵜呑みにしてしまう人がたくさんいると思います。東大や医学部合格者本人や、その関係者が言うことなど、科学的根拠はかなり乏しいのですが。

 英語は「ネイティヴ」に習ったほうがいい、という人がいます。
 本記事の筆者は「ネイティヴってどこの人?」と思っていましたが、本書でも茂木健一郎さんは「イギリス人はアメリカ人が英語をしゃべっているとは思ってない」、「アメリカン・ネイティブの発音ができても頭が空っぽで中身が何もない人より、パキスタンなまり」で中身がある方がいい、と述べています。ネイティヴスピーカーの英語の発音を模倣することよりも、自分自身の声を持ち、意見を表現できる能力が重要だという見解は、非常に新鮮で、これからの国際社会における英語教育の在り方を考えさせられます。また、自己表現に価値を置くべきであるという大切なメッセージを伝えていますのだと思います。

 まとめると、塾長は、数学、理科は、共著で検定を通った、信頼性の高そうな教科書は、あったほうがいいのではないかと考えますが、それ以外の「TOEIC廃止論」「生徒の方から情報を取りに行く真のアクティヴラーニング」「英語のネイティヴってどこの人?」といった内容には、おおむね賛同できます。

 『10年後の世界を生き抜く最先端の教育』は、現代教育の新しい可能性を提示する、一風変わった視点をもった一冊だと思います。新たな教育のパラダイムを探求し、自己成長のための学びの場を自ら作り出すという竹内薫氏の精神が、この本を通じて多くの人々に広がること、そして、それが次の10年、そしてそれ以降の世界をよりよくすることに寄与することを願います。

 

『10年後の世界を生き抜く最先端の教育』の目次

1.なぜ「トライリンガル教育」が必要か
2.日本の教育はオワコンだ
3.英語とプログラミング、どう身につける?
4.頭の良さとは何か
 ーほんとうの知性と教養
5.新しい時代を創る創造性と多様性を身につける

【感想・書評】博士の愛した数式(新潮文庫):どんな数式を博士は愛した?

博士の愛した数式新潮文庫

 

 

 

博士の愛した数式』の感想・書評

 記憶が80分しか持たない数学の元大学教授「博士」、博士のもとに派遣された家政婦の「私」、「私」の息子「ルート」(本作の大半では小学5年生)の物語です。
 1991年に芥川賞を受賞された小川洋子さんの小説です。

 

博士の愛した数式とは?

eπi+1=0

 オイラーの等式と呼ばれるものです。πは円周率ですね。
 余談ですが、円周率とはなにか説明できますか?本記事の筆者の経験上、東大にそれなりに合格するような高校の生徒でも、成績下位層を中心に「円周率って何?」と聞くと黙り込む人がそれなりの割合でいます。
日頃から、物事を根本から理解する姿勢を持ちましょう。
 iは2乗すると-1になる「虚数単位」と呼ばれるもので、高校の数学の「複素数」で習います。
 eはネイピア数と呼ばれ、高校数学では数Ⅲの「微分」で登場します。値は2.71828…(鮒一鉢二鉢と覚えましょう)。
 eも知れば知るほど不思議な性質があります。1つ挙げると、e=1+1/2+1/3+1/4+…です。その他、三角関数微分積分を学んだ後で、自分で調べてみるといいでしょう。

 本記事の筆者自身は、高1でiを習った時、まだeとは何かを知る前に、数学の先生が授業中に紹介して、初めてオイラーの等式を知りました。2.71828…をπi乗すると-1になる。人生の中でも指折りの神秘的な体験だったと思います。

 「博士」も度々「神」を口にします。eπiという神秘に1を加えると0になった。本書の物語全体もそのようなものだったのかもしれません。

 

 さて、本書では、「博士」が「ルート」に、1から10までのたし算を、頭から足していくよりも、もっと簡単な方法を見つけるよう、宿題を出します。
 作者は、ガウス(1777-1855)が学校の先生に1から100まで足すように言われ、すぐに答えたと伝えられていることに着想を得たのかもしれません。
 ただ、「私」と「ルート」の親子は、一般に伝えられるガウスの逸話や、高校数学の等差数列の和の公式とは、またちょっと違ったアプローチで「博士」にプレゼンをします。
 例えば、東大理系入試の数学は150分という短時間で6題も出題され、成績開示や東大新聞の調査を見ても、発想力、思考力などではなく、教科書と入試によく出る技法の理解、記憶で十分に合格者平均点を超える、と思っています。
 高校の内容という、大多数の大学受験生にとってかなりハードルが高い内容で「発想力」「思考力」を鍛えようという試みは、平均的な東大合格者まで含め、ちょっとムリがあるように思います。高校の内容は、偉大な先人の業績を学ぶ、ということで「根本から理解する」くらいの姿勢でいいのではないでしょうか。
 一方で、「博士」のように、その人にとってごくごく基本的な事柄について、様々なアプローチを考えさせるような教育は大切であると考えます。

 

【感想】クマのプーさん(講談社ルビー・ブックス):意外に哲学的。大学受験英語に役立つ?

【感想】クマのプーさん講談社ルビー・ブックス):意外に哲学的。大学受験英語に役立つ?

 

 

 

感想

 クマのプーさんはディズニーアニメのイメージが強いかもしれません。しかし、原作の小説は、児童文学に分類されるのでしょうが、たとえば、ある団体が選んだ「20世紀最高の英語小説ベスト100」で22位にランクインしています。
 小学校高学年あたりが読んでも面白いのだと思いますが、もっと面白さを理解するには、もう少し大人になる必要がある気がします。ちょっと哲学的だったりもすると思います。
 たとえば、「ものごとは、考えようによっては、すべて違って見える」というプーさんの言葉は、物事の捉え方や価値観についての深い洞察を表していると思います。それぞれの状況に対して柔軟な視点を持ち、違った角度から物事を捉えることで、新たな理解が得られることを示唆しています。

 本作は、主人公のプーさんを始めとする動物たちの愛らしい物語であり、登場するキャラクターたちが抱える心の葛藤や友情、そして人間の世界にも通じる普遍的なテーマを描いています。主人公のプーさんと彼の友達たちが住む100エーカーの森を舞台に、様々な冒険や出来事がくり広げられます。プーさんはどこか抜けたところがありながらも愛らしい性格で、彼の友達であるピグレット、ティガー、イーヨー、オウル、カンガ、ルー、そしてクリストファー・ロビンと共に、読者を魅了する物語が展開されます。

 この物語の最大の魅力は、何と言ってもキャラクターたちの心温まる友情だと思います。プーさんたちが、それぞれの個性を尊重し合い、困難な状況にも協力して立ち向かっていく姿が描かれている。また、彼らは普段の生活でさえ、相手の気持ちを考えて行動することが描かれており、読者にも友情や思いやりの大切さを教えてくれると思います。

 登場するキャラクターたちも、それぞれに独特の魅力があります。プーさんは愛らしい見た目と裏腹に、時折ふとした瞬間に哲学的な発言をすることがあります。このギャップが、彼をより一層魅力的なキャラクターへと昇華させていると思います。ピグレットは小さな体でいつも不安に感じながらも、プーさんと共に冒険に出る勇気を持ち続けています。イーヨーは悲観的でどこかユーモラスな性格で、読者に笑いを提供する一方で、彼の悲観主義が他のキャラクターとの対比を際立たせる役割も果たしていると思います。ティガーは元気で好奇心旺盛な性格で、物語に活気を与える存在だと思います。オウルは知識豊富ですが、時に長々と話す癖があり、そのコミカルなキャラクターが物語にアクセントを添えていると思います。カンガとルーは親子であり、彼らの関係性は愛情深いものであるが、彼らもまた森の仲間たちと助け合い、友情を育んでいきます。

 物語の中で繰り広げられる冒険や出来事は、一見すると子供向けのシンプルなものに思えるかもしれません。しかし、それらのエピソードは実は深い意味が込められており、大人になった読者にも多くの教訓を与えると思います。例えば、プーさんが考え抜く「くもの日」の話は、物事の考え方や価値観について、読者に考えさせられる。また、プーさんが「考える力」を持っていることを自覚し、それを活用することで困難を乗り越えるエピソードも、自分自身の力を信じることの大切さを伝えている。

 本作には、子供たちだけでなく大人にも共感できる普遍的なテーマが詰まっています。友情や愛情、自己受容、協力、勇気、失敗からの学びなど、人生において重要な要素が織り込まれており、それらは言葉や文化の壁を越えて多くの人々に共感を与えていると思います。

 また、本作にはユーモアが随所に散りばめられており、その独特のセンスが読者を魅了すると思います。プーさんの言動や他のキャラクターたちの掛け合いが、読者に笑いを提供するだけでなく、物語のテンポを生み出していると思います。このユーモアのおかげで、『くまのプーさん』は単なる子供向けの物語ではなく、大人も楽しむことができる作品となっていると思います。

 第1話はプーさんが木の上の蜂の巣から蜂を欺いてハチミツを取るために、自分は泥だらけになって、青い風船を持って浮かび、青空と黒い雲を装う話です。プーさんはクリストファー・ロビンに、こうもり傘を持って、雨が降っているかのように装うことを頼みます。クリストファー・ロビンは”Silly old Bear!(ばっかなクマのやつ)"と内心笑います。

 その後もプーさんは、ちょっと脳みそが足りないキャラとして描かれます。

 第9話は大雨で水に囲まれたコブタをプーさんが救助する話です。湖と化した森の中をどうやって救助しに行くか。プーさんはクリストファー・ロビンに"We might go in your umbrella,"と言います。クリストファー・ロビンは、プーさんの知恵に感嘆し、このこうもり傘のボートを"The Brain of Pooh"と命名します。
 そして、第10話、最終話は、クリストファー・ロビンがコブタを救助したプーさんの功を労うために、パーティーを開きます。
 第1話のこうもり傘は伏線だったのですね。

 英語版については、原作の難しい表現を易しく書き直したリライト版などもありますが、大学受験レベルのまずまずの英語力があれば、原作で、たまに出てくる難しめの表現に日本語の注をつけたものくらいをスムーズに読めると思います。
 ただし、小説独特の難しさもあるので、先に日本語訳を読んだほうがいいかもしれません。
 原作は、英文のすぐ下にルビがついたものがオススメです。ルビがついているから「ルビー・ブックス」なのでしょうか(笑)。原作の音声CDも買うことができます。
大学受験塾チーム番町の塾長は音声CDも持っています(笑)。

 CD3枚分なので、原作はおそらく20,000~30,000語程度なのではないでしょうか。

 大学受験向けには、20,000~30,000語程度の易しめの英文を用意できるので、多読の素材としてはいいかもしれないと言えます。一方、小説独特の文体や、単語が、ニュース、評論メインの大学受験英語との相性が良くないので、強くはおすすめできない、といったところです。東大のように、小説が出題される大学ならば、小説独特の文体に慣れるのにいいのかもしれませんが、東大の過去問の小説の部分をひたすら復習する、といったほうが、効果は高いかもしれません。
 また、くまのプーさんが好きな人なら、問題なく、多読の素材として使えば、英語力の強化に役立つと思います。

【感想・書評】0才から100才まで学び続けなければならない時代を生きる学ぶ人と育てる人のための教科書(小学館、落合陽一)

0才から100才まで学び続けなければならない時代を生きる学ぶ人と育てる人のための教科書(小学館、落合陽一)

 

 

感想、書評

 筑波大学准教授、学長補佐、「現代の魔法使い」こと落合陽一先生の2018年11月の新刊です。

 「なぜ学校に行かなければならないの?」「なぜ勉強しなくてはならないの?」といった問いに対する答、プログラミング教育に対する見解、「STEAM教育」に対する見解、落合陽一先生が幼少期から現在に至るまで、どんな教育を選び、どう進んできたか、などが語られます。

 STEMとは

S science(科学)
T technology(科学技術)
E engineering(工学)
M mathematics(数学)

の頭文字を取ったものです。これにArt(芸術)を加えて「STEAM教育」とも言われます。

 なぜArtなのか。
 落合陽一先生は「「何か新しいものを生み出したい」という非合理的な願望をアートから引き出そうとするやり方は、非常に納得がいきます。」、「予測不能イノベーションを起こす上で、STEM教育に足りない要素が、人文的なそして審美的な”アートの要素”なのです。」と語ります。

 なぜ、0歳から100歳まで学び続けなければならないのか。
 今後も、平均寿命は伸び続けることが予想され、100歳まで生きるのが当たり前になることが予想されます。テストが存在する、大学を卒業してからの人生のほうが、はるかに長い。会社を定年退職してからの人生も何十年もある。テクノロジーの進化は加速している。一生学び続けなければならない世の中になったのだなあ、と。
 一時期、「老後2000万円問題」が話題になりました。しかし、本書では「貯金よりも借金をできる人を目指す」と述べられます。クラウドファンディングで借金をできるような、プレゼン能力、人望を身につけろ、ということです。60歳を過ぎても、このように事業を起こせればいいですね。
 一方、本の題名には「0歳から」とあります。これは、ありがちな、二流の教育ママが陥りがちな早期教育を意味するものではありません。
 まず、落合陽一先生は、何歳になっても新しいことを身につけられるスキルの培い方は、若い時にいかにたくさん新しいことを習得しようとしたか、それを実際の現場で使おうとしたか、だとお思っているようです。
 また、幼児期には、五感を鍛える、本物を見せることを重視すべきと考えているようです。
 このあたり、筆者も同感です。港区あたりでは、某中学受験塾が、低学年から定員いっぱい、という話が聞かれます。しかし、そのような、二流の早期教育を受けた人達の、20歳、30歳、40歳、60歳は、特に中学受験塾にいかなかった人と比べ、どう違うのでしょうか?
 日本の自称インテリ層は、もう少し教育というものを、学術的に、かつ、実際に世の中で何が起こっているのか、の両面から学ぶべきだと思います。

 さて、大学入試センター試験が共通テストに変わりました。数学では、日常生活の事象に即した出題が増えました。おそらく、大学入試センターとしては「日常生活と結びつけることにより、数学に興味を持ってほしい」という意図なのかもしれません。塾長は「高校レベルの数学なんて、どうせ市場価値はほぼゼロ(大学で量子力学あたりまで習って、革新的なスマホでも作れるようになって、やっと、市場価値が出るものでしょう。)なのだから、そう割り切って、高校でもそう教えて、無理やり、日常と結びつけることはないのではないか、と思っていました。
 一方で、落合陽一先生は、「中等教育数学教育に不足しているのは、実世界の対象を解析的にとらえる習慣やデータサイエンス、いわゆる統計処理や物事の判断に確率や統計を使う

 日本の中学、高校であまり教えられないアカデミック・ライティング(学術論文の書き方)を家庭で鍛えるために、常に「なぜ?」と問うことをおすすめしています。
 上記にも、「なぜ学校に行かなければならないの?」「なぜ勉強しなくてはならないの?」とありますね。

 さあ、みなさんは、なぜ塾に行きますか?

 

【感想・書評】脳科学は人格を変えられるか?(文春文庫):遺伝学と脳の変化

【感想・書評】脳科学は人格を変えられるか?(文春文庫):遺伝学と脳の変化

 

 

脳科学は人格を変えられるか?』の著者

 著者は、オックスフォード大学感情神経科学センター教授のエレーヌ・フォックス先生です。女性です。

 

脳科学は人格を変えられるか?』の内容

 単行本は2014年発売。2017年に文庫化されたようです。大学の研究に基づき、巻末に、引用した論文がたくさん載っている、ちゃんとした本です。本文の中でも多くの実験が引用されています。題名に「人格」とありますが、主に、悲観と楽観について、多くのページが割かれています。

 

悲観脳と楽観脳

 ポジティヴな人とネガティヴな人がいます。
 あまりにも楽観的だと、危険に対して危険を感じないので、最悪の場合、死んでしまう。したがって、ある程度の悲観は、生きるために必要です。しかし、悲観的すぎると、生きづらい。大学受験でも、ネガティヴすぎるがゆえに、うまくいかない人は、ある程度の割合でいるようです。
 本書では、ネガティヴなものに注目する脳の回路を「レイニーブレイン(悲観脳)」、ポジティヴなものに人を向かわせる脳の回路を「サニーブレイン(楽観脳)」と呼んでいます。

 

遺伝子のせい?

 人間のおおむねのことには、遺伝子が関係することは否定できないでしょう。本書でも、それは否定していません。一方、遺伝子ですべてが決まるわけではありません。本書では、悲観と楽観が生じる要因を
・遺伝子
・どんな出来事を経験するか
・世界をどのように解釈するか
の複雑な絡み合い、としています。

 本書では、遺伝子について解説するために、高校の生物の教科書のような説明もされています。1953年にワトソン、クリックがDNAの二重らせん構造を発見した話から、ヌクレオチドと呼ばれる4つの化学塩基の話。
 また、やはり内容は高校の生物の教科書に出てきますが、「エピジェネティクス」という話も出てきます。仮に、同じ遺伝子を持っていても、環境次第で、遺伝子がオンになったりオフになったりする。それは、RNAポリメラーゼ、メッセンジャーRNA、プロモーター、DNAのメチル化(遺伝子をオフにする)といった、やはり大学入試の生物で出題されそうなメカニズムによって行われます。
 したがって、大学受験なども、すべてを遺伝子のせいにして言い訳をするのは、建設的ではない考え方だと思います。ありとあらゆる、できる限りの最善を尽くしたいものです。

 

脳が変化する力

 この手の脳科学の本で、有名な話に「ロンドンのタクシー運転手」の話があります。
 ロンドンのタクシー運転手は、レベルが高く、ロンドンの複雑な道を記憶して、試験を突破した人しか、なることができません。ロンドンのタクシー運転手は、脳の海馬(記憶や空間学習能力に関わる)が肥大しているそうです。

 このように、以前考えられていたのとは大きく異なり、近年は、脳はかなり変化することが知られてきています。

 これと同じ原理で、病的にネガティヴすぎる人の脳を、変化させることができるのではないか、という研究が進んでいるようです。物事のポジティヴな面に注目し、ポジティヴだと意識し続けることによって、脳の回路が変化することは、研究で実証されているそうです。その他、似たようなことについて、様々な研究が進み、可能性が生まれているようです。

 現在の自分を少し超える強度のトレーニングを続けることにより、脳に効果的に神経回路を構築し、より、物事の上達、学校での勉強、大学受験に役立ちそうな文脈で書かれた本に

超一流になるのは才能か努力か?(文藝春秋

があります。

 

マインドフル瞑想の可能性

 本書では、マインドフル瞑想が脳を変化させるかについて、仏教僧の研究などが載っています。やはり、集中したり、気が散るのを防いだりする脳の回路が、たしかに強くなっていたそうです。また、感情のコントロールを助けるいくつかの重要な領域が高密度になっている、つまり、ニューロンが増加していたそうです。そういう人は、当然、大学受験にも強いですよね。さらに、免疫機能にもプラスの改善が見られたそうです。また、本書のテーマである、悲観脳から楽観脳への変化も見られたそうです。

 マインドフル瞑想により、脳が変化することにつき、イェール大学医学部精神神経科卒業の医師で、先端脳科学研究に携わり、論文も多数、執筆されている久賀谷亮先生の著書、世界のエリートがやっている最高の休息法(ダイヤモンド社 では、さらに多くの変化が書かれています。

 

脳科学は人格を変えられるか?』の感想、書評

 上記のように、近年、脳の可塑性(変化できる)について、大学などの研究による科学的根拠に基づき、物事の上達、トレーニングといった面から書かれた本や、マインドフル瞑想といった面から書かれた本があります。
 本書は、脳の可塑性につき、病的にネガティヴな人を改善できないだろうか、というテーマで書かれています。病的にネガティヴで、生きにくさを感じている人は、世界人口の数%程度にはなるとは思うので、この分野がより一層発展すればいいなと思います。
 また、たとえば、医学部志望者に「物事ができるようになるということは、脳にそのような神経回路が構築されること」と言っても、ピンと来ない場合があります。本書のような、遺伝、脳の可塑性などの基本的な知識について、正確な知識が世間で広まると、世間一般の人々の物の見方、考え方もかなり変わるのではないかと思います。

 本書は、脳科学や心理学に興味がある読者にとって興味深い書籍であると思います。また、自分自身の脳の機能や感情を理解することで、よりよい心理的な状態を保つための方法についても学ぶことができます。特に、不安や悲しみに苦しんでいる人には、陰気な脳を明るい脳に変えるためのアドバイスが役立つかもしれません。

 また、本書には、脳科学と心理学の間にある関係についての興味深い考察も含まれています。私たちの脳がどのように機能し、それが私たちの行動や感情にどのような影響を与えるかについての科学的な知見は、心理学や脳科学の分野に大きな進歩をもたらしています。先述のように、本書が、これらの進歩を読者に分かりやすく伝えることで、より広い読者層に脳科学や心理学についての知識を提供する役割を果たすことを期待します。さらに、著者の科学的な知識と実践的なアドバイスによって、私たちの脳がどのように機能し、私たちの感情や行動にどのような影響を与えるかについての理解を深めることができると思います。
 そして、本書の最後の方には「幸福になるにはどうしたらいいのか」「健康な心をつくる」という項目があります。まさに、このあたりが、本書の究極のテーマなのだと思います。