【感想・書評】博士の愛した数式(新潮文庫):どんな数式を博士は愛した?

博士の愛した数式新潮文庫

 

 

 

博士の愛した数式』の感想・書評

 記憶が80分しか持たない数学の元大学教授「博士」、博士のもとに派遣された家政婦の「私」、「私」の息子「ルート」(本作の大半では小学5年生)の物語です。
 1991年に芥川賞を受賞された小川洋子さんの小説です。

 

博士の愛した数式とは?

eπi+1=0

 オイラーの等式と呼ばれるものです。πは円周率ですね。
 余談ですが、円周率とはなにか説明できますか?本記事の筆者の経験上、東大にそれなりに合格するような高校の生徒でも、成績下位層を中心に「円周率って何?」と聞くと黙り込む人がそれなりの割合でいます。
日頃から、物事を根本から理解する姿勢を持ちましょう。
 iは2乗すると-1になる「虚数単位」と呼ばれるもので、高校の数学の「複素数」で習います。
 eはネイピア数と呼ばれ、高校数学では数Ⅲの「微分」で登場します。値は2.71828…(鮒一鉢二鉢と覚えましょう)。
 eも知れば知るほど不思議な性質があります。1つ挙げると、e=1+1/2+1/3+1/4+…です。その他、三角関数微分積分を学んだ後で、自分で調べてみるといいでしょう。

 本記事の筆者自身は、高1でiを習った時、まだeとは何かを知る前に、数学の先生が授業中に紹介して、初めてオイラーの等式を知りました。2.71828…をπi乗すると-1になる。人生の中でも指折りの神秘的な体験だったと思います。

 「博士」も度々「神」を口にします。eπiという神秘に1を加えると0になった。本書の物語全体もそのようなものだったのかもしれません。

 

 さて、本書では、「博士」が「ルート」に、1から10までのたし算を、頭から足していくよりも、もっと簡単な方法を見つけるよう、宿題を出します。
 作者は、ガウス(1777-1855)が学校の先生に1から100まで足すように言われ、すぐに答えたと伝えられていることに着想を得たのかもしれません。
 ただ、「私」と「ルート」の親子は、一般に伝えられるガウスの逸話や、高校数学の等差数列の和の公式とは、またちょっと違ったアプローチで「博士」にプレゼンをします。
 例えば、東大理系入試の数学は150分という短時間で6題も出題され、成績開示や東大新聞の調査を見ても、発想力、思考力などではなく、教科書と入試によく出る技法の理解、記憶で十分に合格者平均点を超える、と思っています。
 高校の内容という、大多数の大学受験生にとってかなりハードルが高い内容で「発想力」「思考力」を鍛えようという試みは、平均的な東大合格者まで含め、ちょっとムリがあるように思います。高校の内容は、偉大な先人の業績を学ぶ、ということで「根本から理解する」くらいの姿勢でいいのではないでしょうか。
 一方で、「博士」のように、その人にとってごくごく基本的な事柄について、様々なアプローチを考えさせるような教育は大切であると考えます。